Seel STAFF BLOG

カルチャー系フリーペーパーを制作しているSeel編集部のスタッフたちによるブログ。

Boy's Lifeを描く

こんにちは。営業2年の渡辺です。

夏って「夏が終わり」とか「夏が去る」って表現するけど

秋ってあんまり言わないって聞いて

確かにその通りだなって実感しながらこの時期を過ごしてます。

秋が終わったのか何なのかわからない季節、皆さんはいかがお過ごしですか。

趣深い挨拶も済んだところで趣のない本題に入ろうと思います。

皆さんはBLが何の略なのか知ってますか?

B(Big)L(Large)=めちゃ巨大でしょうか違いますね。

突然スベるようなこと言って驚かしてごめんなさい。

まぁ、たいていの人はB(Boys)L(Love)の略だと答えますよね。

それも正解なんですが、今回私が紹介したいのは

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B(Boy’s)L(Life)を描く漫画家・雲田はるこ先生です。

実は雲田はるこ先生(以下雲はるさん)は時の人なので、名前を聞いたことある人はいるかもしれません。

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そうです。現在NHKで放送中のドラマ『昭和元禄落語心中』の原作者です。

告知みたいになりましたが、すごく面白いお話なので是非ご覧ください。

アニメ版もオススメです。椎名林檎がかっこよ主題歌を提供しています。

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また、三浦しをんの『舟を編む』の挿絵を担当したことでも少し話題になりました。その後コミカライズも雲はるさんが担当しています。

アニメも松田龍平主演の映画もあるので、どこからでも編み始めることができます。

そんな雲はるさんなんですが、なんと今年でデビュー10周年を迎えました。めでたい!!!

デビューは意外と思われがちですが『窓辺の君』というBL作品です。

『落語心中』や『舟を編む』といった一般向け作品の印象が強いですが、デビュー以降も一般向け作品と並行してずっとBL作品を描き続けています。

『落語心中』の作者というイメージが大きいと思いますが、実はBL界隈でもビッグラージネームなんです。

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では、雲はるさんの何がすごいのか。

振り出しに戻りますが、私は雲はるさんを「B(Boy’s)L(Life)を描く漫画家」と紹介しました。

つまり雲はるさんの魅力は

Boy=男キャラたちのLife=生命、日常、人生 を巧みに描く

という点です。

どういうことなのかまずはLife=「生命」の面から見ていきましょう。

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こちらの図はインタビュー等でも何度か話題に上がっている『野ばら』カバー下のキャラクター図です。

よく見てください。あ〜いるわ〜ってなりませんか?

可愛いらしい絵柄にも関わらず描き分けがしっかりされてます。

なで肩だったり逆三角形体型だったり、お腹が割れてたり、すね毛が濃かったり。

雲はるさんは過去に

「人間はどんな体型でも綺麗」

と発言しています。

そうなんですよ、雲はるさんはBL界の金子みすゞなんですよ。

鈴と、小鳥と、それから私と、攻と、受

みんなちがって、みんないい。

キャラ単位じゃなくてカップリング単位でも見てみましょう。

BLには王道の「体格差萌え」という萌えがあります。

体格の大きい攻と小さい受の体格差に萌えることを指します。

これはもう王道というより少女漫画の系譜から続く、公式みたいなもんです。

ちなみに「逆体格差萌え」という概念も派生してます。

しかし、雲はるさんのカップリングは「体格差萌え」に収まらない「個体差萌え」だと私は思います。

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例えばこの『いとしの猫っ毛』のカップル、みいくん(左)と恵ちゃん(右)。

みいくんが攻で恵ちゃんが受なんですけど体格差がほぼない。

でも、二人の身体にはたくさんの違いがあります。骨格、肉付き、四肢の太さ。

体格の大小という二項対立に収まらない新しい萌えが発見できるはずです。

まさに生きているような、そんなキャラたちの「生命」を描くのがお上手だということがわかったでしょうか。

続いてLife=「日常」面から見ましょう。

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これは先ほども出ましたが『いとしの猫っ毛』という作品です。

この作品はシリーズもので現在5巻と小樽篇、番外篇の全7巻が出版されています。

この作品は日常BLの草分け的な存在です。

多分BLとの関連語で「やおい」って言葉を聞いたことある人もいるかと思います。

80年代の同人即売会から使われ出した、今でいうBLみたいな意味の言葉です。

「ヤマなし、オチなし、意味なし」の頭文字をとったと言われています。

簡単にいうとずっとイチャイチャして終わりっていうことです。

サイコーっていうことです。

でもそれって同人誌という十数ページから二十ページほどのコンテンツだからこそできることじゃないですか。

商業作品には「やおい」的な作品とは真逆であることが多いです。

だいたい一冊のうちにヤマもオチも意味もあって完結します。

そんな中、登場したのが日常BL『いとしの猫っ毛』です。

もうずっとイチャイチャしてる。

商業作品の中で一番「やおい」的かもしれません。

例えばどんなお話があるのか。

みいくんが風邪をひいて恵ちゃんが看病するだけのお話や

酔っちゃった恵ちゃんをお迎えに行くだけのお話、

みいくんが朝ごはん作るだけのお話に

二人でひなたぼっこするだけのお話など。

すごい日常じゃないですか?

ほのぼのどころじゃない、ほのぼのぼのぼのします。

日常が描かれれば描かれるほど、

ふとした仕草や表情が輝くんですよね。

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久々にタバコを吸っている姿だったり、

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お昼寝してしまった姿だったり、

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本を読んでる後ろ姿だったり。

本当にその一瞬を切り取るのがうまいです。

直後のコマに、相手にキュンとしてる恵ちゃんやみいくんが描かれているので、

タバコを吸ってるみいくんにキュンとしてる恵ちゃんの可愛さに私がキュンとする、みたいなマトリョーシカの構造でキュンとしちゃいます。

また、BLならでのラブシーンも同じように日常的であり、だからこそふとしたアブノーマルさがよりエッロ…ってなります。

ここからは苦手な人はドカベンの糸目しててください。ドカベン可愛いので。

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さすがに真っ最中なシーンを貼るのはアレなんで、及んでないシーンを。

見てもらうとわかると思うんですけど、デフォルメされたコマがあったり、「ぐふふふふ」っていうオノマトペがあったり、キラキラお目々が描かれてたりしています。

これによって緊張感が和らげられ、日常感が生まれてます。

もともとラブシーンが多くはない作品なんですけど、

その中でも稀にアブノーマルなラブシーンが出てきます(図書館のトイレでの行為や電話越し、女装など)。

でも、そんなシーンでも先ほどの緊張を緩める技が使われているので、すごく日常的に見えてきて、だからこそ「イケないこと感」が強まるんです。

これこそがエロです。知らんけど。

エロい話から話題戻します。ドカベンの目してた人はもう開いて大丈夫です。

また、マンガ技法の面でも、日常とは反対のドラマチックな出来事が起こりにくい技法が意図的に使われているらしいです。

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一般的にスクリーントーンを貼るところに薄墨を塗ったり、背景には鉛筆線が使われていたりしています。

コマ割りも変形コマを使用せず、四角のコマで進められています。

確かにこの技法により、ほっこり度が増し、四コマ的な安心感を感じます。

二人の日常は続いていくんだな…っていう感じ。

話が散らかりましたが、「日常」を描くのにも優れている漫画家さんだということがわかったでしょうか。

最後にLife=「人生」を確認していきましょう。

BLに関わらず、地球の大体の物語は「主人公の成長」について描かれています。

これは私じゃなくて教授がよく言ってるので間違ってないと思います。

だからキャラの「人生」は「どう成長していったか」で捉えてもいいと思います。

これは私が言ってるのできっと間違ってます。

そしてBLってその人生=成長に影響を及ぼした人物が目に見えてわかるんです。

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恋人ですね。

恋人と出会ってからの成長を雲はるさんは結構言葉で描いてくれてることが多いです。

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こんな風に他の人から「変わったね」と言われるシーンが結構あります。

他の人から見ても分かるくらい雲はる作品のキャラは成長し続けます。

また、カップルが「どう成長していったか」が体現されているのが、

雲はるさん得意の「同軸リバ」です。

「同軸リバ」っていうのはBL用語で、同じ話の中で攻と受の役割が入れ替わる設定のことです。

あんまり一般的な設定ではなく、結構地雷だ!って人は多いです。

キャラの一貫性がなくなるのが嫌だとか、攻受の役割はもはや性格って思ってる人は苦手だと思います。

多分普段BLを読まない人も、男女間ではありえない設定なので地雷って思うかもしれないです。

でも、地雷な人も雲はるさんの「同軸リバ」にはドカベンの目をしないでください。

雲はるキャラたちは、相手をおもっているがゆえのリバーシブルです。

つまり「同軸リバ」とは「相手のために成長する」物語なのです。

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『野ばら』という短編集の「BOYの季節」という作品ではオカマちゃんのみみクンというキャラが、好きなゲイの男の子・薫チャンのために女の子をやめるシーンが描かれています。

見た目が男の子になったみみクンは薫チャンと結ばれ、ラブシーンではみみクンが本来の欲望とは逆の攻をします。

しかしこのあと、みみクンが薫チャンから女の子らしいイヤリングをもらったのをきっかけに、本当は受がしたいと告白し、リバーシブルすることに成功します。

こうしてみみクンはオカマちゃんのまま、女の子のまま愛されるというBL史に残るハッピーエンドを迎えました。

この同軸リバを見ると、みみクンと薫チャンの遠慮や葛藤を越えての成長がよく見て取れます。

相手をおもって変わっていく、それってすごく愛だなぁって思います。

また反対に、相手がいなかったら変われてなかったと思うと人生における人との交わりは大事なんだなぁと実感します。

普段、人生論が大嫌いな私でも雲はるさんのキャラの人生には説得力があるので、赤べこのように頷いてしまいました。

ちょっと「人生」の定義が狭くはありますが、

雲はるさんは「人生」を描く天才でもあるということがわかったでしょうか。

とても長くなってしまいましたが、

Boy’s Lifeを描く漫画家・雲田はるこ先生について語らせていただきました。

公然の場でBLを語るには躊躇したし、結構勇気がいりました。

もっと、フラットに語れる社会になったらいいと思います。

急に重いジェンダー論を持ち出して力技でまとめようとしました。

ごめんなさい。

でも偏見で素敵な漫画家さんに出会えないのは本当に残念だとおもうので!

気になった方は読んでみてくだい!

また、渋谷のGALLERY Xで11/22~12/10まで

雲田はるこ先生の10周年原画展が開催中です。無料です。

興味を持たれた方はぜひ足をお運びください。

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ではでは!したっけ〜