Seel STAFF BLOG

カルチャー系フリーペーパーを制作しているSeel編集部のスタッフたちによるブログ。

ハルの話

こんにちは。ついに大学の授業も始まり、本格的に3年生になってしまったデザインの竹内です。皆様も学年や立場が変わり、新しい節目の春となっているのではないでしょうか。

 ゼミも始まり、将来の話をする機会も増え、なぜ自分はそれを「choice」したのか問われ考える時間が年々増えてきたように感じています。今回はそれにまつわる最近公開された映画を紹介したいと思います。

 私が紹介したいのは『劇場版Free!-Timeless Medley-』です。

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これは『聲の形』などの作品を手がけている京都アニメーションFree!シリーズ(2013年夏〜)の最新映画。テレビシリーズ1期・2期の新編集版第1弾となっています。第2回京都アニメーション大賞奨励賞受賞作「ハイ☆スピード!」を原案として生まれたTVアニメ「Free!」シリーズ。水泳にかける少年たちの情熱、水泳を通して繋がる仲間たちとの出会い、そこから未来について考え夢を見つける姿を描いた作品。「フリーしか泳がない」という信念を持ち、人を魅了する泳ぎをする七瀬遙とその仲間たちの成長を美しい作画で描いています。

 注目すべきは「ファンが心から好きと言える作品を」として制作陣の熱い思いからシリーズが再構成されるということです。このシリーズは制作順に小学生時代を描いた小説を原案とし、高校生時代のFree!~Eternal Summer~(アニメ1期・2期)、その後中学時代のハイ★スピード(映画)があります。この設定年代と制作順の差によって生じてしまったわずかな違和感を払拭するために、今回紹介した劇場版は生まれました。1期には登場しなかったハイスピメンバーも劇場版には登場し、その後の物語にも違う展開をもたらすそうです。しかもこれは商法的な動きだけでなく、始まりは制作陣の熱い作品とファンへの思い。これは完全に愛ですね、愛ですよ。

そして映像美と演出。作風が作風だけに嫌煙する人もいるでしょうが、是非嫌がらず見てほしい。こんな歳になってもなお、自分にはあったのかどうかさえ分からない「青春」というものを体感できます。最近『モアナと伝説の海』で海がキャラクターとしての立場を担っていると話題になりましたが、このシリーズでも水は味方であり障害ともなる重要な立ち位置にあります。年々技術も追加され、映像美が増してきました。そして演出。様々な無機物や事象に意味が付加され、伏線になってきます。彼らの周りの環境、つまり空や海、建物といった背景もキャラクターの内面を描き出しますし、作中多く登場する鳶(トビ)は彼らのメタファーです。(舞台は岩鳶高校水泳部ですしね。)その他コマ送りで見ていくと後半のエピソードに繋がるキーが多く隠されていました。高校生の私は絶望エンドを3つ想像して見事に全て的中させてしまい呻いていた記憶があります。

 それに加え、現地のロケハンがきちんとなされ、聖地として観光業まで盛んにしました。驚くべきはその再現率。アニメ放送時は受験生だったので行けなかったのですが、その反動か大学生になってから毎年聖地鳥取・岩美には訪れています笑。見てくださいこの再現率!!

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OPに登場する岩美の海岸。時間や季節によって様々な表情を見せてくれます。実際に遊泳もできます。

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幼馴染の家はなんと実在。その周辺はマンホールまで再現。主人公の家以外は実在します。どこか浮世離れしたところがある主人公の家だけ実在しないなんてなんだか勘ぐってしまいますね笑

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ライバルとその幼馴染の思い出の神社。

その周辺、小学校まで再現されています。

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主人公たちの通学路。海は人と落ち着いて話したり自分のことを見つめる良い場所と言われていますが、この作品でもいろんな話がこの場所でなされます。

余談:

私は岩美の思い出をより綺麗に残したいという思いだけでカメラに興味を持ち一眼レフを使い始め、今ではすっかり趣味となりました。そして初めていわゆる田舎文化に触れ、今まで毛嫌いしていたのですが一気に好きになりました。都心とは異なる時間が流れる場所の心地良さに触れることができた良い経験です。聖地巡礼は近年密かなブーム、昨年の『君の名は。』で一気にメディアに取り上げられるまでの観光の1ルートとなってきました。何気なく過ごしていた日常、ただの街だった場所に意味づけがなされ、新たな楽しみ方が増えるところが素敵なところだなと感じています。

 鳥取・岩美の良いところは、町全体で観光客を受け入れてくださり、ファンも引け目を感じることなく過ごせる点です。観光マップも作品ごとに作られ、困っていると皆さん声をかけてくださいました。ファン以上にロケ地について詳しいおじさまなんかもいたりします笑。地域に愛されていることを感じます。それは制作会社と地域の連携がなされている証であり、その素敵な関係性を壊さないようファンも振る舞うという良い流れがあるように感じました

 正直オタクというレッテルの貼られた人物について快く思わない人は多く、大学生なんて大半がそうだと思います。実際民度は低い状況が多いですし、自分がそうにもかかわらずオタクが嫌いなオタクというのも多く存在します。私もそうです。しかし私が大学に入ってから色んな人に触れ感じたのは、皆何かの「オタク」であり、夢中になれ、無条件で心から好きと言える情熱の矛先があることって素敵だということです。民度が低い、つまりマナーや口が悪く害悪と言われてしまうのは、人間的にその他の要素が欠けているのであり、その人が他者から貼られてしまったオタクというレッテルのせいではないと思います。人間は多面的でこそ面白い、そういうものだと思うのです。

 そしてまた、逆に色んな社会的レッテルについて考えすぎ重荷になっていた時に、心から好きと言えるものに再度触れた時、生きているという感覚を改めて感じました。大真面目にこんなことを書くなんて気持ちが悪いでしょうが、そういう無条件にパッションを感じられるものこそ貴重であり、浅はかな自分の欲望に目を向けるチャンスになると思います。黒歴史は作ってなんぼ。後から何を思ったってその時には戻れない。楽しい記憶だけ抜き出して今黒歴史と思えたことを喜び、至らなかった点を今後につなげていけば良いだけの話です。

「chioce」将来についての決断を迫られ、自分と向き合う男子高校生たちを美しいアニメーションで描いたこの作品。絶賛上映中かつまだまだ物語は続きます。期待を2倍も3倍も超えていく作品に出会え夢中になれたこと、ただただ純粋にとても嬉しく思います。そして出会いから4年経った今、またchoiceという言葉に頭を抱えています。世の中は他者と社会とのコミュニケーションという外部影響から構成されていると思うのですが、日々を楽しむエネルギーというのは自分の中からしか生じないものだと痛感することができました。そしてその楽しみ方とは日常との関わり方に1つ別視点が増えるだけでも違ってくると思います。

 好きなものを好きと言い、自己責任で自分のために(自由)に生きる。皆様も自身の好きだったものに再度触れ、忘れていた情熱を、再び感じてみてはいかがでしょうか。当時とはまた違った楽しみ方ができるかもしれませんよ。