Seel STAFF BLOG

カルチャー系フリーペーパーを制作しているSeel編集部のスタッフたちによるブログ。

まじめに、ゆっくり、

こんにちは。営業2年の渡辺です。

梅雨入りもして、心が腐っちゃいそうな6月ですね。

私は今月に入って三度ほど突然の雨に見舞われて、

三度ほどコンビニ傘を買いました。

出費的な面でもそうですが、自分のポンコツさにもう腐りました。

折りたたみ傘を常備している賢いみなさんは梅雨でも心を正常に保ててるとは思いますが、もし心が腐っちゃった時に是非オススメしたい漫画があります。

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中村明日美子さんの『同級生』シリーズです。

あらすじとか雰囲気を説明するのがめんどくさいので

とりあえず一昨年に映画化されたものの予告編をご覧ください。

https://youtu.be/Bv-eKHtH0r4

なんとなく「めちゃくちゃ青春で、爽やかで、エモい」ってざっくり掴めたかと思います。

ごめんなさい。一応、掴めなかった人のためにあらすじ書きます。

めんどくさがっちゃダメですよね。そういうとこですよね。

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イラスト左の金髪がおちゃらけたバンドマン、草壁光。

イラスト右の眼鏡が寡黙な優等生、佐条利人。

同じクラスだが、いわゆる「ジャンルの違う」ふたり。

接点はなかったのだがある放課後、佐条が教室で合唱祭の曲を一人で練習していたところに草壁が居合せる。

ひたむきに練習する佐条の後ろ姿を目にした草壁は思わず声をかける…。

というあらすじです。

私は本当にこの作品が好きで、語ろうと思えばいくらでも語れるんですが、

今回は言葉やセリフに注目して紹介したいと思います。

まず、この作品のキャッチコピーです。

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「まじめに、ゆっくり、恋をしよう。」

ステキですね。

シンプルイズベスト、オブベスト。

私はKinKi Kids

「恋はジェットコースター」

って歌ってる年に生まれた

いわゆるジェットコースター・ロマンスベビーなので

この言葉がより一層響きました。

では、本編の言葉を見ていきましょう。

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「水の中を泳ぐように歩く」(『卒業アルバム』「もうひとつの」より)

これは佐条が草壁を描写した言葉なんですけど、

すごく綺麗な言葉ですよね。

そしてめちゃくちゃ草壁の雰囲気をうまく表現できてるんです。

水の中を浮遊しているようなフワフワ感、

でも捕らえようとしたらスーって逃げていく。

もう本当に天才だと思いました。

続いてこちらのセリフです。

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「佐条 ライターもってない?」(『同級生』「秋」より)

愛すべき当て馬役、原先生のセリフです。

彼は二人の担任で音楽の先生です。

入学式の日のある出来事で佐条のことを好きになりました。

そんな原先生が佐条に会うたびに言うのが

「佐条 ライターもってない?」

というセリフです。

これ、まだ『同級生』読んでない皆さんでもわかると思うんですけど、

佐条がライターを持ってるわけないんです。

こんな真面目な子がタバコなんて吸うわけないんです。

だから毎回、佐条は「もってません」って答えてます。

なんのとりとめもないやりとりに見えるかもしれないですが、

このやりとり、原先生の恋そのものだと思いませんか。

先生と生徒という関係で届いてはいけない想い。

わかっているからこそ、相手にノーと言い続けてもらいたい。

…せつないですね。

どんどんいきましょー

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「あきのたの かりほの いおの……とま を あらみ わが…わがころも…」

「わがころもでは つゆにぬれつつ」(『同級生』「秋」より)

和歌が出てくる男子エモすぎませんか?

このお話は『同級生』が連載されていた雑誌の

テーマが「和」の号に描かれたお話だそうです。

それにしてもなかなか粋です。

百人一首の一番歌としても有名なこの和歌。

露骨な恋の歌をピックアップしないあたりも粋な作者さんです。

あ、一応草壁をフォローしておくと

急に彼が和歌を詠むというキザなことをした訳ではなく、

お話の冒頭、古典の時間でこの歌が扱われてるのです。

歌の現代語訳をコピペします。

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秋の田圃のほとりにある仮小屋の、屋根を葺いた苫の編み目が

粗いので、私の衣の袖は露に濡れていくばかりだ。

この仮小屋っていうのはせっかく収穫した作物を

他人や動物に奪われないために見張る小屋のことです。

下の句は恋の歌として

あなたを待って涙で袖が濡れる

って解釈されることもあります。

古典の世界から『同級生』の世界に戻ります。

このお話では原先生が当て馬として初登場します。

草壁と佐条がちょっとした仲違いをして、

佐条に歩み寄る原先生…

って話です。

このお話と和歌を結びつけると

原先生が佐条を奪わないように仮小屋で見張る草壁

そして涙で濡れるのかなー

って読んでない人は予想すると思うんですけど違うんです。

この後、草壁は佐条を連れ戻しに来るんです!

そしてこの歌を詠んで、告白をするんです!

そう、「露に濡れつつ」の「露」が

涙じゃないんです!汗なんです!

ただ涙して待つんじゃなくて、汗を流して迎えに来てくれる。

それが草壁という男です。

さっきまで悲しい和歌だったのに

草壁のかっこよさを表した和歌になりました。

ということでいくつか、『同級生』の言葉やセリフについて見てきましたが

いかがだったでしょうか。

本編ではもっと素晴らしい中村明日美子大先生の表現が読めます。

ちょうどこの時期くらいから話が始まる『同級生』シリーズなので

ぜひ彼らと同じ季節をたどってみてください。

それでは。

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